FOCUS p24-25, 2001年5月23日

日銀はカネつくれ、構造改革ちょっと待って
ドイツ人エコノミストが暴いた「秘密」



ニッポンが不況である。かれこれ10年続く、なが-いトンネルである。'80年代のバブル、空前の好景気の後にやってきた、ウンザリするような不景気。そして今、「構造改革」の大合唱が起きている。が、実はそれもこれも実前に用意されたシナリオ通り、と喝破するドイツ人エコノミストがいる。リチャード・A・ヴェルナー氏(33)。このほど出版された「円の支配者」(草思社)は、これまでの常識をひっくり返すようなレポートである。

「バブルは厳しい不況を作り出す準備だった。不況を長引かせるのは、日本型の経済システムはもうダメ、構造改革しかない、というムードを作るため。日銀が、ヨーヨーを操るように日本の景気をもてあそんでいる」。政治家が悪い? 旧大蔵省が能無し?"犯人探し" では、ウマイこと追及を逃れてきた日銀だけれど、「彼らはどうすれば景気が良くなるか、ハナから分かっていた。通貨を増やして世の中におカネを回せば、景気はとっくによくなってる。大蔵省も政治も、財政赤字を増やしてでも景気対策をやった。日銀だけが、わざと何もしていないのです」。

人気絶頂の小泉新総理がうったえる「痛みをともなう構造改革」についても、「何かしたい、という姿勢はいいけど、日銀が長いことかけて描いた絵の中で踊ってますね。いま言われてる構造改革は、単にアメリカと同じにしろ、というもの。経済システムを真似れば、必ず社会も似る。貧富の差は拡大し、治安だって悪くなるでしょう。キチンと議論もしないで、ムードで走るのは危険です。戦後、奇跡の回復をとげた日本的システムを丸ごと捨てるのはもったいないし、ものすごいコストがかかることです。日本の皆さんは、ホントにそれでいいんですか」。

バイエルン州の出身。オックスフォードと東大の大学院を卒業後、ドイツ銀行、日銀や大蔵省の金融研究所で研究員をつとめた。その後、ジャーディン・フレミング証券のチーフエコノミストとして活躍し、現在は投資顧問会社を経営するかたわら、上智大学で教鞭をとる。書道好きな日本通エコノミストいによれば「日本の最高権力者」は総理でなく、日銀の総裁なのだと言う。「生え抜きのエリートが、"関東軍"とアダ名される営業局トップを経て副総裁、そして総裁になる。バチカンにたとえれば、総裁は法王。それをプリンスたる後継者たちが支え、一国をあやつる。異様な光景ですね。」

情報とカネを独り占めにしながら、「独立性」を叫ぶのはオカシイ、ともいう。"トンチンカン"だの"裸の王様"だの、いまだに辞任の噂が消えない速水総裁を、「正直な人。責任感も強い」と評価するが、「内部に交代させようとする勢力があって、周りのサポートがない。結局、裏のプリンスたちに操られているだけ」。次期総裁が濃厚といわれる筆頭「プリンス」の福井俊彦・元副総裁については、「彼は営業局長時代に、バブルを作ったヒト」とバッサリ。バブル退治で「平成の鬼平」の名を馳せた三重野康元総裁ですら、「副総裁としてバブル発生を主導し、自分で不況の引き金をひいた。部下の福井さんと組んで、スジ書き通りにね」。

不況はまだまだ続いて、不良債権も国債もやっぱり最後は国民にシワ寄せ、か。「この10年で失業者が増え、自殺もたくさん出た。もういいじゃないですか。日本の人たちは充分に苦しんだ。あとは、日銀がおカネをつくればいいんですよ。」