日刊ゲンダイ 2001年5月16日

ニッポン再生 緊急インタビュー

「日銀の政策次第でインフレなし4%成長が可能です」



 金融関係者の間でいま、大胆な一冊が話題になっている。ドイツ人エコノミスト、リチャード・A・ヴェルナー氏(33)の「円の支配者」(草思社)だ。
 バブルの創出と崩壊、それに続く大不況の真犯人はだれか。その解明に努めた著者が導き出した結論は「日銀」だった。従来の常識を覆す衝撃的な結果を明らかにした著者に、ニッポン再生のシナリオを直撃した。

「デフレ退治、景気回復には資金投入がベスト」

 バブル崩壊後の10年間、政府は100兆円もの財政出動をしたが、景気はさっぱり回復しなかった。「財政出動による需要の底上げ」という幻想は、財政破綻をもたらしただけだった。
 景気は金利ではなく、信用創造で決まるというのが持論のヴェルナー氏は、景気回復のためには「資金投入がいちばん!」と主張する。「今の状況では、どんどん資金を投入して名目GDP(成長率)が3%、4%と上がってもインフレにはならない。なぜかというと、今は循環的にも不況のうえ、構造転換のおかげで潜在成長率が上がってきた。そこで、(実際の成長率よりも潜在成長率の方が上回っているため)構造的なマネー不足も拡大され、デフレ圧力が強まっているわけです。だから、ここで注入しなくてはならないのです。」しかし、資金需要そのものが弱いとの見方がある。その点はどうか。「日本は90年代からずっと、世界で最大の資金需要がある国なのです。いちばん大きなのは民間、その中でも大きいのは中小企業です。雇用も7割以上。そこが資金需要も十分ある。ところがリスキーだから銀行が出さない。資金需要がないのは,銀行が出したがる大企業だけなのです。 民間だけじゃない。税収不足で政府も資金需要がある。中央銀行から資金調達すればいい。そうすれば信用創造が発生するから、ポジティブな影響が表れます」  こうした量的政策を実施すれば、効果は1年後には表れてくる、という。

不良債権問題の解決も可能

 銀行の不良債権問題も、量的政策で解決すると指摘する。「98年以来、大蔵省(財務省)は銀行対策には国民のお金や国債を発行して公的資金を投入してきたが、そうではなく、日銀がおカネをつくるべき。そのおカネで銀行が不良債権を償却すれば、国民の負担はない。もちろん、そこにはきちんとしたシステムが必要だし、銀行も行動改善が必要です」 その一方で、たとえば政府が銀行から資金を借り入れて、公園や公共施設を建設する。国債発行を減らすことができるうえ、銀行の信用創造により、新しい購買力を生み出すことも可能だという。「日銀のプリンスが最終的にゴーサインを出して、こうした量的緩和政策に踏み切れば、日本はインフレなしの4%成長を享受できる」 そのためには日銀そのものの改革が必要だし、総裁にだれがなるかも重要だ。 「バブルをつくり、その後の不況を招いた"円の支配者"の周辺の人物ではダメです」と断言。ポスト速水の最有力候補といわれる福井俊彦前副総裁の就任には否定的だ。  さらに、日銀法を改正して、「国民に対するアカウンタビリティー(説明責任)を強化するとともに、成長率目標を盛り込み、達成できないときには罰則規定も必要」と主張している。  構造改革の必要性が叫ばれているが、その本質を見極めないと危険極まりない。ヴェルナー氏の警鐘には、耳を傾けるものがある。

「円の支配者」−バブル創出、崩壊の真犯人は日銀!

 ヴェルナー氏は指摘する。 「戦後、日本の通貨を支配し、経済の核心を握ってきたのは、わずか5人の日銀のプリンス(総裁)だった。」  新木栄吉、一万田尚登、佐々木直、前川春雄、三重野康―日銀生え抜きで総裁を務めた各氏のことだ。  たしかに、法的には大蔵省が優越していた。しかし信用創造―信用統制というマネー管理(量的政策)の最強の切り札を駆使して、プリンスたちは日本経済を支配してきた、というのである。
 そのプリンスたちは、日本の経済構造を米国並みの自由競争社会に変えることで、大蔵省の権限をそぎ、中央銀行の独立確保を狙った。そこで登場するのが「日本改造10年計画」、すなわち1986年の前川リポートだった。バブルの創出と崩壊、その後の長引く不況は、この10年計画の中に仕組まれていたー。  著者は91年から93年までオックスフオード大学経済研究所の研究員として、日銀金融研究所などで研究生活を送った。当事の行内インタビューなどをもとに、日銀の意思決定と行動、役割を探り、金融政策の舞台裏を暴いたのが本書。今後、さまざまな議論を呼び起こしそうだ。