夕刊フジ 2001年5月16日
円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか
依然として日本経済が低迷を続ける中、「バブル経済を起こしたのも、その後十年間の大不況もすべて日本銀行が意図的に仕組んだこと」と"日銀犯人説"を唱える衝撃のレポートが登場した。日本在住のドイツ人エコノミスト、リチャード・A・ヴェルナー氏の「円の支配者」だ。本書は日本経済は日銀の"闇の支配者"たちが日本経済を牛耳り、「日本の経済構造を米国型に変えること」が狙いだったことを暴き出す。くしくも小泉新内閣が構造改革を掲げる中、論争を巻き起こすこと間違いなしの問題作だ。(中田達也)
日銀を操った6人のプリンス
チェック及ばず
英文の原題は「プリンス・オブ・円」。プリンスとは、日銀の中でも、生え抜きで副総裁から総裁のコースを歩んだ人物たちのことで、日本の真の支配者は政府でも大蔵省(現・財務省)でもなく、「戦後わずか六人」の彼らプリンスだったという。「他の日銀スタッフによるチェックもコントロールも及ばないところで行動していた」という彼らは、金利の操作という表向きの仕事を隠れみのとして、"窓口指導"という名目で銀行の貸出残高を決め、通貨の供給量を調節することで日本経済を自由に操っていたというのだ。
長期化も意図的
「1982年に日銀は、表向きは窓口指導をやめたと言っていたが、実際はその後も続いていた。つまり、貸し出し量を増やしてバブルを起こしたのも、急激に引き締めてつぶしたのも、日銀だった。」
それだけではない。その後の「失われた十年」と呼ばれる戦後最大の不況を引き起こすばかりか、意図的に長引かせたのもプリンスたちのしわざだというのだ。ヴェルナー氏は「負債の山も銀行の不良債権も、さらに失業者や自殺者の増加も彼らの政策の結果だ」と舌鋒(ぜっぽう)鋭く追及する。にわかに信じられない話だが、客員研究員として日銀にいたこともあるヴェルナー氏は、日銀内部や銀行関係者らのインタビューや、プリンスたちのこれまでの発言、膨大なデータを分析することで、彼らの"陰謀"を具体的かつ明解に立証していく。プリンスたちが最終的に何を目論んでいたのかは、本書をお読みいただくとして、ヴェルナー氏が問題視するのは彼らが目標としていた米国型の経済構造改革路線だ。
知る権利がある
これは、まさに現在の内閣が突き進んでいる路線そのものだが、「日本型の経済構造がだめで米国型がよいという証拠はなく証明もされていない。90年代の長い不況に対して経済対策がだめだったたのでシステムを変えるしかないという論理は間違っている」と批判する。
また、本書中では「構造変化によって生産性は向上した。日銀のプリンスが最終的にゴーサインを出せば、日本は5年からそれ以上、インフレなしの4%成長を享受できるだろう」と予測するが、その結果、「平等、安全な社会、完全雇用などの日本のよかった点も捨てることを覚悟しなければならない」とも指摘している。
「これだけ大きく社会を変えることが、裏で決められていいのか。国民には起こったことを知る権利がある」と流暢な日本語で訴えるヴェルナー氏。確かに多くの国民がこの一冊でいままで知らなかった事実を知ることになるだろう。