リバイバル新聞 2001年10月28日
嵐を静める神は、危機的状況に助けを与える
― 『円の支配者』を書かれたきっかけを教えてください
ヴェルナー: もう10年前になりますが、当初の原稿は1991年にすでに書いていました。でも、出版社からでるまでに10年かかってしまったんですね。そして日本の経済状況も、この10年でずいぶん変わってしまいました。バブルの時代、日本はNYのロックフェラービルを買うなど、ものすごい勢いで対外投資を進めました。そして世界中の経済学者が色々な研究をしましたが、どうしてそういうことが日本にできたのか、誰もわかりませんでした。その原因を突き止めたのが、この本の最初の原稿だったわけです。
― この本の中で一番重要なポイントは何でしょうか。
ヴェルナー: 経済学の中でほとんど無視されてきた銀行の「信用創造」について、その重要性が分かりました。信用創造とは各銀行がお金をつくりだすことです。紙幣の印刷ができるのは中央銀行だけですが、各銀行も帳簿上で新たなお金をつくり出すことができるのです。銀行の歴史としては中央銀行がない時代の方が長いので、その当時のことを考えると分かりやすいですね。当時、銀行は「お金を貸してください」と言ってくる人に対して、それぞれの銀行券を発行していました。白い紙に印刷しただけのものです。それによって銀行には、返済金が利子とともに入ってくるのです。まさに無から有を生み出していたわけですね。現在は中央銀行があるので見えにくくなっていますが、銀行の経済体制はまったく同じです。
― 本を書くにあたって世界中のエコノミストが気がつかなかった点に気付いたということですが、神様から何か導きがあったのでしょうか。
ヴェルナー: 10年前、私は日本開発銀行にいたのですが、1つの論文を6ヶ月間の研究後提出するようにと言われました。私は大学を卒業したばかりでしたが、誰も説明できなかった「日本の対外投資」をテーマに選びました。ジャパンマネーが世界を席巻し、ニューヨーク、ハワイ、オーストラリアなどの土地とビルを買い占めていた時代です。日本の対外投資は、あまりにも規模が大きすぎて、世界のエコノミストも説明できずにいました。その謎にチャレンジしたわけです。私としては「地価」に大きな鍵があるんじゃないかと思っていました。オックスフォード大学大学院の教授からは「6ヶ月ではちょっと無理なんじゃないか」と言われましたね。
― では、自分独自のものを考えなければならなくなったわけですね。
ヴェルナー: そうです。当時の経済状況をもう少し説明しますと、東京の大手町の土地がアメリカのカリフォルニア州全体と同じ値段になっていました。どう考えてもおかしいですね。では、その高価な土地を誰に売るのでしょうか。海外投資家は高すぎて手を出しません。そこで日本人に売るのです。つまり、「日本株式会社」の中で売買を行っていたわけですね。しかしそれがどうやって対外投資に結びつくかが分からなかった。リチャード・クーという有名なエコノミストとも話しましたが「やめといた方がいい」と言われました。4ヶ月近くが過ぎて何のきっかけもつかめませんでした。焦りました。「人間的に考えれば無理」ということが分かったんですね(笑)。「この世界の常識では解決できない」と。91年6月23日の夜のことですが、長く祈ったんですね。罪の悔い改めもしました。「神様助けてください。奇跡が必要です。もし奇跡を起こしてくださったら、今後私はあなたのために働きます」と祈りました。そして祈りを終えて部屋の壁を見たとき、一枚の絵が目に留まりました。その絵はスペインの博物館で買ったドラクロワのもので、嵐の海に船が浮かんでいる絵でした。そしてその時、絵のなかにイエスさまが描かれているのが分かったのです。2年間飾っていたのに気が付きませんでした。ガリラヤ湖で嵐にあったときイエスさまが嵐を静めたという有名な聖書の箇所ですね。弟子たちがパニックに陥っていた様子と私の姿がダブりました。私は、人間的な考えでは沈むしかない、しかしイエスさまが側にいるから信仰を用いるべきだ、そうすると主は奇跡を行って下さる、と理解しました。そして次の日の朝起きたとき、なんとなく周りの雰囲気が変わっていたのです。そして通勤途中、いつも開いている神保町のカトリックの教会に入って祈りました。祈った後、教会のパンフレットを取り、電車に乗り込みました。そしてパンフレットを開いたら、同じ様なガリラヤ湖の絵が描いてあったのです。イエスさまが立ち上がって手を差し伸べている絵です。「これで大丈夫だ」という信仰が来ましたね。オフィスに着き、机の前に座り、主からの示しを待っていました。すると来たんですね(笑)。気がついてみると当たり前のことでした。土地を持っている会社が土地を担保にして銀行からお金を借りる、銀行は信用創造によって無からお金を生み出すことができるわけだからどんどんお金を作る、その資金で会社は海外の不動産を買い占めていく、という構図です。数式を使い、全てが説明できました。そこで、どんなデータが必要かも分かりました。つまり、不動産向けの貸し出しと長期資本移動の関係などですね。
― 『円の支配者』には、それ以上のもっと多くのことが盛り込まれていますが、それらのことはどうやって気がついたのですか?
ヴェルナー: 銀行の貸出量、つまり「信用創造」が非常に重要な変数であることがわかりました。「信用創造」というキーワードを掴んだことで、経済界のあらゆることが分かってきたのです。GDP、株式市場の動き、為替まで説明できました。そして、ある人々が信用創造を用いて景気を動かしているということまで分かってきました。それが日本銀行のエリートたちです。
― 日銀のエリートが、自分たちがやっていることが分からないよう煙幕を張ってきたということですか。
ヴェルナー: そうです。国民はもとよりエコノミストにも分からないように情報操作をしてきました。日銀は海外の教授などを招いて研究させ、論文を書いてもらうのですが、飛行機はファーストクラス、到着したら家に住まわせ、多くのお金を使って日銀に都合の良い論文を書いてもらっています。国内のエコノミストに対しても同じですね。
― 本の中で日銀がバブルを作り出し、その後の不況も作り出したと言っておられますが、どういう手法によってそれを行ったのですか。
ヴェルナー: 私たちは中央銀行(日銀)の役割といったら、景気を良くして国の経済と物価を安定させることしか考えませんね。しかし日銀のエリートたちは、あえて景気・不景気の波を作り、景気を循環させることによって莫大な利益を得てきたのです。実は、日銀は戦後の日本型経済構造を壊し、アメリカ型の自由市場にしようとしてきました。持てるものがもっと持つようになる、という社会ですね。日銀のエリートたちは元々アメリカとのパイプが太かったのです。しかし戦後の日本型経済構造は、所得格差があまり生じないシステムで、世界的に見ると非常に特殊なケースでした。ここで主導権を握っていたのが大蔵省です。ではどうやって日本型システムを壊すか。大きな危機を招けばいいのです。どうやって大きな危機を招くかというと、まずバブルを作り、その後それを破裂させるのです。そうすると多額の不良債権が発生し、大きな危機が生じます。バブルは日銀が「窓口指導」によって作り出したのですね。各銀行に「もっと貸し出しなさい」という指示を出し続け、大量の紙幣を印刷しました。各銀行は日銀に逆らえないようになっていますから、大変なことになると思いながらもそれに従いました。その後、日銀が指導方針を180度転換し、紙幣の印刷を止めたことによって90年代の不況が始まりました。その結果、「日本型経済構造は駄目だ。構造改革をしなければならない」という論調が強くなり、大蔵省は解体され、名前まで剥奪されました。日銀は日銀法改正によって法的にも完全独立を果たしました。日銀の勝利です。「構造改革」ということが今も言われていますが、景気の回復とはほとんど関係ないですね。景気回復のためには紙幣を印刷し、お金の量を増やせばいいのです。日銀は「失われた10年」の中でいつでも景気回復のボタンを押せたのに、わざと押さなかったのです。
― 先ほど日銀のエリートと言われましたが、彼らはどんな人物なんですか。
ヴェルナー: 80年代のバブル当時、銀行への窓口指導を行ったのは福井俊彦氏、そして副総裁は三重野康氏でしたが、彼らが実権を握っていました。また、90年代の不況を作ったのもこの2人です。彼ら以前は、新木栄吉、一万田尚登、佐々木直、前川春雄といった人物がいます。彼らは自分たちのことを「プリンス」と呼んでいるんですね。
― 日本だけを見ると、いわゆる日銀のプリンスたちがいると思いますが、アメリカには連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン氏がいます。日銀のプリンスたちも彼の下にいるということにはなりませんか。
ヴェルナー: 結果的にはそうなりますが、グリーンスパンも雇われた人間です。
― では、それをまた支配している人物なり団体があるということですね。
ヴェルナー: そういうことです。FRBの株をウォール街の金融財閥ですから、自ずと分かってきますね。
― その金融財閥が世界を買っていこうと、そういう動きに出ているということですね。
ヴェルナー: そう、彼らの動きを見れば明らかです。タイや韓国などで生じたアジア金融危機の背後にも彼らの存在があります。バブルとその後の危機を作り、しかるのちウォール街の金融財閥が入ってきて支配をするわけです。日本も同じことですね。また、EUの通貨統合をはじめとして、南北アメリカの通貨統合(2005年)、アジアの通貨統合も進んでいます。まさに黙示録に書かれていることが現実のものと成りつつあります。私はアジアの通貨統合は10年後と見ています。
― 本の中で、日本経済が回復基調に入っていると言っておられますが、それはどういう根拠から言えるのですか。
ヴェルナー: 日銀は大蔵省との戦いに勝利し、小泉政権もできたことで、ほぼその目的を達成しました。ですから今後は景気を回復させるように動いていくはずです。日銀にとっても、そのほうがメリットがある。実際に、経済に投入しているお金も増えてきています。
― 今、不良債権の処理が大きな問題となっていますが、その解決法は何だと思いますか。
ヴェルナー: この不良債権ですが、実は一日で、もっといえば一秒で解決できるのです。日銀が各銀行の不良債権を当時の値段で購入すれば不良債権はなくなります。日銀が引き受けた不良債権は、自分でお金を印刷してそれに充てればいいのです。税金を使う必要もありませんしコストもかかりません。
― 政府は、いわゆる「痛みの伴う構造改革」という言い方で、国民に痛みを強いようとしています。政府と日銀は解決の手段を知っていながらそれを行わないというのですか。
ヴェルナー: 政府は、RCCという不良債権買い取り機構をつくりましたので、不良債権を買う方向に行くと思います。しかしこれは税金を使って買い取るわけです。日銀自らが不良債権を買うということはないでしょうね。しかし、不良債権の処理するしないにかかわらず、日銀が「信用創造」を増やせば、日本の景気は回復すると思います。
― 現在の日銀総裁である速水優氏はクリスチャンということですが、なぜ彼はあなたが主張する政策を採らないのでしょう。
ヴェルナー: 彼とは二度会ったことがあり、論文も本もお送りしました。でも、返事はありませんし政策の変更もありません。私にはちょっと理解できないですね。総裁という立場は大きな責任がありますし、クリスチャンであれば、もっと責任が大きいと思います。主は「求めなさい、そうすれば与えられます」と言っておられますので、主に求め、最善の政策を採っていただきたいと願っています。