週刊新潮 2001年6月7日
TEMPOブックス
R・A・ヴェルナー 「円の支配者」
失われた10年と称される90年代の日本の不況を分析し、その原因と責任の所在を明らかにした衝撃的な著書だ。
バブル経済とその後の5%に近い失業率や3万人を超える自殺者を生み出した経済危機の演出者は、三重野康や福井俊彦といった「日銀のプリンス」たちであったと著者は主張する。
著者によると、90年代の不況を克服する最善の方法は、信用創造、すなわち日銀が大量のお金を印刷することだった。
ところが、三重野たちは大蔵省を潰し、自分たちの権力を拡大するために意図的に信用創造をサボタージュしてしまった。その一例が、95年の米国債購入に際して行った、円を印刷するかわりに国内経済からお金を吸い上げる、「不胎化政策」であって、この政策が信用破壊を招いた。
この他さまざまな事実や証言、計数を駆使して著者は三重野らによる不況演出の実態を明らかにする。
もし、この論証に対する有効な反論が出なければ、三重野は平成の鬼平どころか、とんでもない犯罪者となることに。さらに大蔵省の役人や政治家、大新聞の経済記者やエコノミストたちは、お人よしの大バカだったということになる。
(吉田利子訳、草思社・2000円)