東京新聞(夕刊) 2001年5月31日

書物の森を散歩する

ベストセラー:リチャード・A・ヴェルナー著 「円の支配者」



ドイツ人エコノミストが日銀の金融政策を徹底分析した注目の書。日銀は金利を操作しているといいながら、実は1950年代から90年代初めまで一貫して市中銀行への窓口指導を通じて貸出増加枠、すなわち信用創造量をコントロールしていたと主張する。政策決定権限は「総裁の座」を約束されたごく一部のエリートの手に握られ、彼らの目標は秘密の日本改造計画と自らの権力拡大であった、という結論は衝撃的だ。

 著者は金融リサーチ、コンサルタント業を営んでいる。単なる推測ではなく、独自の理論的考察、日銀や民間銀行担当者に対する徹底インタビューなどに裏打ちされている点が、強い説得力をもっている。日本経済の現代史を描いた書物としても面白い。吉田利子訳。  5月刊、現在6刷り15万部。(草思社)