|
株式市場新聞 インタビュー リチャード・A・ヴェルナー なぜ効かぬ日銀の量的緩和策 |
■構造改革よりも日銀改革が急務
−−最大の「聖域」から手をつけるべき−−
−−日本経済の状況認識は。
「過去10年間、政府は色々な景気対策を実施し、金利もゼロまで下がってきましたが効果は全くありません。問題の本質は、循環的な問題ではなく日本経済のシステムに問題があるようです。規制緩和で民営化すれば景気が良くなるという考え方がありますが、これは大きな誤りで、経済構造をいくら変えても、また米国型経済を導入してもデフレ不況から脱出はできません。不況の原因を簡単にいえばお金の量が減少したことに尽きます」
−−その意味では今回、日銀は量的緩和策に踏み切りましたが。
「量的緩和政策の定義として中央銀行の当座預金、準備預金の残高を増やす、それが量的緩和政策だと日銀はいっていますが、これは何の意味もありません。民間銀行が中央銀行にお金を預けても景気は良くならないからです。真の量的緩和政策は日銀の買いオペの大幅な拡大です。すでに今年5月、6月からその動きは本格化しており、量的緩和策が遂行されています。そして98年の刺激的な量的緩和時点よりも、CP買いオペは増えていますので、今後、6、9カ月先に景気は良くなるはずです。株価も秋には回復してくると思います。さらに来年は循環的な経済回復だけでなく構造変化のおかげで潜在成長率も高まりますので、日銀が資金供給を続ける限り4%成長は期待できます。今、株は買いです」
−−日銀の資金調節で経済は一喜一憂するということですか。
「経済の動きによって株式市場も左右できるなど、全て日銀がコントロールできるわけです。結論をいいますと実は日銀が国民や政治家に『日本のシステムはだめ』という意識を伝えようとしています。理由は、戦後続く日本型経済構造よりも、米国型経済構造を推進しているからです」
−−日銀が目指す究極の目的とは。
「そこは色々な理由があるのですが、中央銀行の支配力がより強い米国流の自由主義経済体制へと構造を改革することを目的とし、すでに80年代、中曽根首相主導による民活時代に大幅な自由化路線を主張して構造改革のバイブルとなった『前川レポート』で改革の指標を具体化させています。日本型経済構造では日銀の法律的立場が非常に弱かったわけです。もともと大蔵省の下で、官僚が強く法律的に日銀は弱い立場にあり、そもそも米国型経済導入すれば大蔵省の力がなくなると考えていたわけです。ところが、日本型システムは戦後の経済を成功させてきた優秀な制度なので、誰も自らギブアップしたくない、なんで成功してきたシステムを今さらやめなくてはいけないかということで、この10年、日銀は意図的に不況を作ってきたわけです。日本型システムはもうだめ、規制緩和、自由化などの構造改革しないと景気回復ならないという声が強まってきており、まさに小泉政権の考え方につながってきています」
−−失われた10年は日銀によって形成されてきたということですか。
「現在の小泉政権は日銀の計画通りに運んでおり、日銀にとっては構造改革のチャンス到来というわけです。しかし、残念ながら構造改革は景気に良い影響を与えません。小泉政権は日銀が支配している経済構造に日本経済の問題の本質があることに気づいていません。いわば小泉政権は日銀の罠に落ちてしまっていて、「聖域なしに構造改革」を行おうとしているのですけれども、一番の聖域は日銀なのです。そこは攻撃して構造改革をすべきなのですが、全然手をつけていない。日銀改革を断行して、国民のための中央銀行を作る必要があります。そうすれば必ずすぐに景気は良くなります」
−−日銀によって日本は動かされている。円の支配者が国をコントロールしているということですか。
「中央銀行が巨大な権力を握って、国民から責任を問われることがないというシステムは国民にとって最悪です。その辺の事情を政治家は勉強すべきです。政治が真実をわかれば法律で日銀の役割を変えることができるのです。今回の量的緩和拡大を仮に日銀が実行しなくともま何らペナルティーはなく、その意味では今回の量的緩和発表はまやかしに近いものがあります」
−−日銀改革の具体的な方法は。
「いろいろなやり方がありますが、現在、日銀の政策目標はひとつだけなっています。それは物価安定です。その目標を変え、物価安定プラス経済安定、つまり政府が決定する名目GDPのターゲットを設定し、日銀はそれを達成しなくてはいけないという制度を作るべきです。たとえば、政治家が3%成長を決め、日銀に『名目成長率3%、1年半のうちに達成しなさい』と伝えるというものです。ただし、罰則がないと日銀はこれまでと同じく好きなようにやるだけなので、総裁が辞任するだけでは足らず、日銀のトップはじめ、スタッフの半分を解雇するというようなものが必要です。こうしたことを法制化すれば必ず名目成長率3%は達成します。日銀のスタッフはいつも『構造改革と労働市場では実績主義が必要』と言っており、日銀自身に対しても実績主義を認めるはずでしょう」
−−日銀は必要ですか。
「いいえ。日銀のような中央銀行は誰も必要とはしていません。逆に、日銀解体が必要です。中央銀行の役割は民間銀行が貸し出しをしないときに企業と政府にお金を貸し出す、お金の量を増やすべきときに増やすということですが、これまで日銀はずっとやってきませんでした。中央銀行の役割を果たしてこなかった点で廃止すべきです。現在の日銀が国民のために働いていないので、中央銀行なしの経済システムがいいと思います。アメリカも、1913年までに中央銀行がなかった国でしたが、高度成長ができて、1900年ごろまでに当時の経済大国であったイギリスを追い越して、ナンバーワンの経済パワーになりました。日銀がなければ、財務省は直接に必要なお金を造れればいいわけです」